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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)639号 判決

控訴人

吉元重巳

右訴訟代理人弁護士

西田秀史

西田三千代

宇佐美英司

被控訴人

破産者

株式会社大管工業

破産管財人

今中利昭

右訴訟代理人弁護士

吉村洋

釜田佳孝

浦田和栄

谷口達吉

松本司

村上和史

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人に関する部分を取消す。

2  被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用(但し、控訴人に関する部分に限る。)する。

一  原判決の補正

1  原判決三枚目表六行目の「被告会社」の次に「との間にそ」を付加し、七行目に「との間に」とあるのを「への」と改める。

2  同五枚目表三行目に「新広島カントリークラブ」とあるのを「株式会社新広島カントリー倶楽部」と改める。

二  当事者の当審における主張

1  控訴人の主張

(一) 被控訴人は、本訴において破産会社が本件個人会員権を有することの確認を求めているが、法人は本件個人会員権を取得することができないから、破産会社はその権利主体たりえないものというべきである。

(二) 被控訴人の後記主張2(二)は争う。

2  被控訴人の主張

(一) 控訴人の前記主張1は争う。

法人が、その被用者名義で本件個人会員権を取得することも許される。

(二) 控訴人は、原審において法人が本件個人会員権を取得することができることを肯定する主張をしているので、当審においてこれを否定する主張をすることは信義に反し許されない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、正当としてこれを認容すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用(但し、控訴人に関する部分に限る。)する。

1  原判決の補正

(一)  原判決七枚目表一一行目の「で認定」を削除する。

(二)  同八枚目裏三行目から四行目、七行目同九枚目裏三行目及び同一一枚目裏一三行目に「新広島カントリークラブ」とあるのをいずれも「株式会社新広島カントリー倶楽部」と改める。

(三)  同八枚目裏四行目に「同」とあるのを「新広島カントリー」と、六行目に「クラブ」とあるのを「会社」とそれぞれ改める。

(四)  同一〇枚目表七行目に「の証言中にも、池内」とあるのを「及び当審証人大賀幸生の各証言中にも、同証人ら」と改める。

(五)  同裏六行目の「証人」から七行目の「こと」までの部分を「原審証人前川達雄及び当審証人大賀幸生の各証言によると、破産会社は、昭和五〇年ないし同五一年ころ、一年間に一、二回程度の割合で、営業成績が良好な営業所に対して、本社から褒賞として現金あるいはまれに破産会社の株式を与え、営業所長の裁量においてこれを営業所所属の従業員に分配していたこと、しかし、本社から直接特定の従業員に対してこのような褒賞が与えられることはなく、そのころ控訴人が営業所長をしていた岡山営業所の各従業員が受けていた褒賞は一回につき金一〇万円前後にすぎなかつたこと」と改める。

(六)  同一一枚目裏一〇行目の「総合すると、」の次に「控訴人の前記主張に副う」を、同行の「証人池内」の次に「当審証人大賀」を、それぞれ付加する。

2  当審における控訴人の主張に対する判断

控訴人は、法人である破産会社は本件個人会員権の権利主体たりえないと主張する。

しかし、〈証拠〉によれば、新広島カントリークラブの会員には個人会員や法人会員などの類別があり、その会員たる地位は株式会社新広島カントリー倶楽部の承認を得て預り保証金の返還請求権とともに他に譲渡することができるものとされ、同クラブの会則上法人が個人会員権を取得することを特に禁止する旨の定めもなされていないこと、同クラブの法人会員の入会金及び保証金は個人会員の倍額であるので、便宜上法人がその役員ないし被用者名義で個人会員の入会申込をなし個人会員権を取得する事例も実際に存在したことなどの事実が認められ、これによれば、本件個人会員権は一定の客観的な交換価値を有し他に譲渡しうる性質のものであることが明らかである。そして、右のような本件個人会員権の性質及び当事者間に争いのない破産会社の目的(請求原因1)と前記三2に認定の本件個人会員権取得の経緯を総合考察すれば、法人である破産会社であつても、一定の財産的価値のある本件会員権をその従業員名義で取得し、その権利主体となることは許されるものと解されるから、控訴人の前記主張は採用することができない。

二よつて、被控訴人の控訴人に対する本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川 恭 裁判官小澤義彦 裁判官井上繁規)

《参考・原判決》

〔主   文〕

一 原告と被告吉元重巳との間で、訴外株式会社大管工業が新広島カントリークラブの個人会員権(預り保証書番号第B一四三二号)を有することを確認する。

二 被告株式会社新広島カントリー倶楽部は、原告に対し、金一八〇万円及びこれに対する昭和五九年六月一六日から右支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三 訴訟費用は被告の負担とする。

四 この判決は、主文第二、三項に限り仮に執行することができる。

〔事   実〕

第一 当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

主文同旨

二 請求の趣旨に対する被告らの答弁

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二 当事者の主張

一 請求原因

1 訴外株式会社大管工業(本社大阪市住吉区長居東三丁目一一番二四号、以下「破産会社」という。)は、各種浄化槽の設計、生産、施工等を業とする株式会社であるが、昭和五九年一月二四日午前一〇時大阪地方裁判所から破産宣告を受け、同日原告が右破産管財人に選任された(大阪地方裁判所昭和五九年(フ)第一号破産事件)。

2 被告吉元重巳(以下「被告吉元」という。)は、破産会社の元岡山営業所長であり、現在は株式会社中国大管工業(以下「中国大管工業」という。)の代表取締役であるところ、被告株式会社新広島カントリー倶楽部(以下「被告会社」という。)は、ゴルフ場経営を主たる目的とする株式会社である。

3(一) 破産会社は、昭和五〇年一二月一九日、被告会社の経営する新広島カントリークラブとの間に入会契約を締結し、被告吉元名義で同クラブの個人会員権を取得したが(預り保証書番号第B一四三二号)(以下「本件個人会員権」という。)、その際、被告会社に対し、右クラブ入会金として金二〇万円の、また、預り保証金として金一八〇万円の合計金二〇〇万円を支払つた。

(二) 破産会社が被告吉元名義で個人会員となつた事情は次のとおりである。すなわち、破産会社は、昭和五〇年頃被告会社から汚水処理工事を請負うにあたり、被告会社から破産会社に対し、右工事を請負わせるかわりに被告会社の経営する新広島カントリークラブの会員になるよう要請されたため、破産会社も工事ができるならと考えこれに応ずることとしたが、ただ法人会員よりも個人会員の方が割安であるため、当時右工事に関与した当時の破産会社の岡山営業所長であつた被告吉元名義で個人会員の入会申込をなし、右(一)記載の金員を支払つたものである。この点は、被告会社も被告吉元自身も十分承知していたものである。

4 破産会社が被告吉元名義で新広島カントリークラブに入会した昭和五〇年一二月一九日頃の、同クラブの会則によると、既納の預り保証金は正式開場後五か年据置き、その後は請求あり次第返還する定めとなつているところ(同会則は昭和五五年四月四日に据置期間一〇年と改訂されたが、この変更は破産会社に対抗できない。)、現時点において、既に右据置期間は経過している。

5 そこで、原告は被告に対し、昭和五九年四月一一日到達の内容証明郵便で前記預り保証金一八〇万円の返還を請求した。

6 よつて、原告は、被告吉元との間で、破産会社が本件個人会員権を有することの確認を求め、被告会社に対し、預託金返還請求権に基づき、金一八〇万円及びこれに対する履行期到来日の翌日である昭和五九年四月一二日から右支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 請求原因に対する認否及び主張

(被告吉元)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、被告吉元が破産会社の元岡山営業所長であり、現在中国大管工業の代表取締役であることは認めるが、その余の事実は知らない。

3(一) 同3(一)の事実のうち、破産会社が被告会社に対し、被告会社が経営する新広島カントリークラブのクラブ入会金として金二〇万円預り保証金として金一八〇万円をそれぞれ支払つたことは認めるが、その余の事実は否認する。同3(二)の事実は否認する。

(二) 新広島カントリークラブとの間に入会契約を締結したのは、破産会社の従業員であつた被告吉元であり、本件個人会員権は、被告吉元が取得した。そして、右会員権取得費用は、被告吉元が、有限会社日下部産業(以下「日下部産業」という。)と破産会社との間の新広島カントリークラブ汚水処理施設新設工事の下請契約を取つてきたことに対する褒賞として、破産会社から被告吉元に贈与されたものであり、右贈与は、右下請工事契約を得るため、破産会社において新広島カントリークラブのゴルフ場会員権を取得する必要があつたので、破産会社が費用出捐のうえ、被告吉元のために同被告の名で入会手続をなし、被告吉元にゴルフ場会員権を取得させるという形でなされた。

(被告会社)

1 請求原因1の事実は知らない。

2 同2の事実は認める。

3(一) 同3(一)(二)の各事実は否認する。

(二) 被告会社は、昭和五〇年七月一〇日、被告吉元から個人会員として入会の申込を受け、同年一二月一八日、被告吉元から、クラブ入会金二〇万円と預り保証金一八〇万円の合計金二〇〇万円を受領したので、被告会社は被告吉元に対し、被告会社の会員証を発行するとともに、昭和五一年六月三〇日、被告吉元に対し、金一八〇万円の預り保証書を発行した。

以上のとおり、被告会社は、破産会社との間にクラブの入会契約を締結したことはないし、破産会社を被告会社の会員として扱つたこともない。

4 同4の事実のうち、新広島カントリークラブの旧会則が保証金を正式開場後五か年は据置く旨を定めていること、右旧会則が、保証金を払込完了の日から一〇年間据置く旨の規定に改正されたことは認める。

5(一) 同5の事実は認める。

(二) 被告会社としては、クラブ入会申込の際の保証金等の資金の実態を判断することはできないし、また、右実態を判断して会員を決めるべきものでもないから、あくまでも被告会社への入会申込、入会により会員を決めることになり、従つて、被告会社が経営する新広島カントリークラブの会員は、入会申込み及び入会のあつた被告吉元個人であるから、原告からの保証金返還請求には応じられない。

第三 証拠〈省略〉

〔理   由〕

一 請求原因1の事実は、原告と被告吉元との間では争いがなく、弁論の全趣旨によると、原告と被告会社との間においても請求原因1の事実を認めることができる。

二 次に、請求原因2の事実のうち、被告吉元が、破産会社の元岡山営業所長であり、現在は中国大管工業の代表取締役であることは、当事者間に争いがない。そして、被告会社がゴルフ場経営を主たる目的とする株式会社であることは、原告と被告会社との間で争いがなく、弁論の全趣旨によると、原告と被告吉元との間においても右事実を認めることができる。

三 そこで、請求原因3の事実について判断する。

1 破産会社が被告会社に対し、被告会社が経営する新広島カントリークラブのクラブ入会金として金二〇万円、預り保証金として金一八〇万円をそれぞれ支払つたことは、原告と被告吉元との間で争いがない。

2 そして、右1及び前記一、二で認定の各事実に、〈証拠〉を総合すると、(1)破産会社は、各種浄化槽の設計、生産、施工等を業とする株式会社であつたところ、昭和五〇年当時、被告吉元が破産会社の岡山及び広島の各営業所長を兼務していたこと、(2)汚水処理装置の設計、施工及び販売を業とする日下部産業は、昭和五〇年春頃、被告会社の経営する新広島カントリークラブの汚水処理装置一式の施工工事を請負つたが、その際同カントリークラブのゴルフ会員権の購入方を要請されたので、個人会員権を一口引受けるとともに、右工事内容の一部であるクラブハウスの汚水処理工事を破産会社に下請させるに当り、当時破産会社の広島営業所の所長代理をしていた池内保夫(以下「池内」という。)に対し、破産会社においても新広島カントリークラブのゴルフ会員権の購入を引受けるよう要請したこと、(3)そこで、池内から報告を受けた被告吉元が、大阪にある破産会社の本社に赴き、右ゴルフ会員権購入の件について決裁を仰いだところ、破産会社は、日下部産業からの要請を受け入れて、新広島カントリークラブのゴルフ会員権を購入することにしたが、右クラブの法人会員のクラブ入会金及び預り保証金は、個人会員のそれの倍額であつたので、破産会社は、法人会員権の半額の出捐ですむ個人会員権一口を購入することに決め、かつ、ゴルフ場の所在地が広島であるところから、便宜上、破産会社の広島及び岡山の各営業所長を兼務する被告吉元の名義で右個人会員権を取得することにしたこと、(4)そして、破産会社は、昭和五〇年七月一〇日頃、新広島カントリークラブに対し、被告吉元名義で同クラブへの個人会員の入会申込み手続をなしたところ、同クラブは、同年一二月一八日頃、右入会申込みを承諾し、その頃破産会社と新広島カントリークラブとの間に、入会契約が締結され、その結果、破産会社が被告吉元名義で本件個人会員権を取得するとともに、破産会社は被告会社に対し、右クラブ入会金として金二〇万円、預り保証金として金一八〇万円合計金二〇〇万円を支払つたこと、(5)ところで、破産会社による本件個人会員権取得が、前述のように被告吉元の名義で行なわれたところから、被告会社は、昭和五一年六月下旬頃、被告吉元のもとへ、いずれも被告吉元を名宛人とする前記保証金一八〇万円の預り保証書(甲第四号証)及び領収書(甲第五号証)、被告吉元名義のメンバーカード(甲第六、七号証)を送付し、被告吉元においてこれらを保管していたが、被告吉元は、昭和五四年に破産会社を円満退職し、自ら中国大管工業を設立してその代表取締役に就任したので、破産会社から、本件個人会員権が同会社に帰属するものであることを理由に、前記預り保証書、領収書及びメンバーカードの返還を求められ、被告吉元は、何ら異議を述べることなくその返還に応じたこと、(6)そして、前記預り保証書等は、以後破産会社の破産宣告時に至るまで、破産会社の本社で保管されていたこと、以上の事実が認められる。

3 ところで、被告吉元は、新広島カントリークラブとの間に入会契約を締結したのは被告吉元であつて、本件個人会員権は被告吉元が取得したものであり、右会員権取得費用は、被告吉元が、日下部産業と破産会社との間の新広島カントリークラブ汚水処理施設新設工事の下請契約を取つてきたことに対する褒賞として、破産会社から被告吉元に贈与されたものである旨を主張し、また、被告会社も、被告会社は、破産会社との間にクラブ入会契約を締結したことはない旨を主張しているところ、被告吉元は、その本人尋問において、「被告吉元が、新広島カントリークラブ会員権の購入の件で破産会社の本社に赴き、決裁を仰いだところ、当時ニチメンから破産会社に出向していた小山顧問から、「同クラブの会員権を被告吉元に買つてやれ」との発言があり、同席の前川達雄社長と波々伯部専務が「分かりました。」と述べて、被告吉元が本件個人会員権を買つて貰うことに決つた」旨を供述し、証人池内保夫の証言中にも、池内が被告吉元から、本件個人会員権の帰属について右と同趣旨のことを聞いている旨の供述がある。

しかしながら、(イ)本件の全証拠によつても、破産会社が日下部産業から前記工事を下請することに成功できたことについて、被告吉元が特段に顕著な功労があつたものとは認められず、かえつて証人池内保夫の証言によると、右下請契約の締結に至るまで、日下部産業との交渉に当つていたのは、当時破産会社広島営業所長代理の池内であつたことが認められるから、右下請契約締結に対する褒賞として、被告吉元のみに本件個人会員権が与えられるのは極めて不自然であるし、(ロ)〈証拠〉によると、破産会社にはそもそもかかる褒賞制度は存在していなかつたことが認められ、(ハ)さらに、被告吉元が、破産会社を退職して自ら中国大管工業を設立後、破産会社から、本件個人会員権が同会社に帰属するものであることを理由に、保証金一八〇万円の預り保証書及び領収書、メンバーカードの返還を求められ、これに何ら異議を述べることなくその返還に応じていることは、前記2の(5)で認定したとおりである。もつとも、被告吉元は、右(ハ)の点について「被告吉元が破産会社に右預り保証書等を引渡したのは、中国大管工業が破産会社との間に特約店契約を結び、その契約保証金の支払に代えて本件個人会員権を預けたものであり、その後、中国大管工業は、破産会社に保証金一〇〇万円を差入れたが、右金一〇〇万円は保証金額として少なかつたので、前記預り保証書等もそのまま破産会社に預けておいた」旨を供述しているが、原告と被告吉元との間ではいずれも成立に争いがなく、〈証拠〉によると、中国大管工業は、破産会社に対する破産債権届出書において、破産会社との特約店契約に基づく契約保証金の返還請求債権として前記保証金一〇〇万円のみを記載するにとどまり、本件個人会員権の返還請求権の存在については全く記載がないことが認められるから、被告吉元のこの点に関する供述は信用することができない。

以上、前記(イ)ないし(ハ)の各事実に前記2の冒頭に掲記の各証拠を総合すると、前記被告吉元及び証人池内の各供述はたやすく信用できないのであつて、前記2で認定のとおり、新広島カントリークラブとの間に入会契約を締結したのは、破産会社であり、破産会社が本件個人会員権を取得したものと認めるのが相当であり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

四 次に、新広島カントリークラブの旧会則が、保証金を正式開場後五か年間は据置く旨を定めていること、右旧会則が、保証金を払込完了の日から一〇年間据置く旨の規定に改正されたことは、当事者間に争いがなく、右事実及び〈証拠〉によると、破産会社が被告会社に本件個人会員権の保証金一八〇万円を払い込んだ当時の新広島カントリークラブの旧会則は、「既納の預り保証金は……正式開場後五ケ年を据置き、その後退会等の場合、請求あり次第返還する」旨を定めており、現時点において、既に右据置期間は経過していることが認められ、一方請求原因5の事実は、当事者間に争いがない。なお、右旧会則の前記改正は、破産会社に対抗することができないのは明らかである。

そうすると、原告は、被告会社に対し、預託金返還請求権に基づき、金一八〇万円及びこれに対する履行期到来日の翌日である昭和五九年四月一二日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものというべきである。

もつとも、被告会社は、被告会社としては、クラブ入会申込の際の保証金等の資金の実態を判断することはできないし、また、右実態を判断して会員を決めるべきものでもないから、あくまでも被告会社への入会申込み、入会により会員を決めることになり、従つて、被告会社が経営する新広島カントリークラブの会員は、入会申込み及び入会のあつた被告吉元個人であるから、原告からの保証金返還請求には応じられない旨を主張するが、これまで認定したとおり、同クラブとの間にクラブ入会契約を締結したのは破産会社であつて、被告会社に預り保証金を支払つたのも破産会社であるから、破産会社が本件保証金一八〇万円の返還請求権を有するのは明らかであり、右被告会社の主張は理由がない。

五 よつて、原告の被告らに対する請求はいずれも正当であるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官三浦 潤)

三浦 潤

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